下肢静脈瘤
下肢の静脈は体表面にある表在静脈と深いところにある深部静脈があり、これらの二つの静脈は穿通枝によって交通しています。静脈には弁があり、通常血液は表在から深部に向かって一方通行に流れますが、何らかの原因で表在静脈や穿通枝の弁が破壊されると、深部から表在静脈へ血液の逆流が生じて表在静脈が怒張、血液がうっ滞することで様々な症状を引き起こします。ほかにも後述する深部静脈血栓症の慢性期でも静脈瘤は生じますが、これは二次性として区別されます。患者さんが相談に訪れる静脈瘤の大部分は一次性下肢静脈瘤です。静脈瘤の原因は不明ですが発症には長時間の立ち仕事や女性では妊娠や女性ホルモン、ほかに加齢、感染、外傷などが危険因子に挙げられます。症状は皮膚の外見が気になり来院される無症状の軽症のものから、むくみ(浮腫)、足の重量感、だるさ、そして色素沈着や皮膚炎、潰瘍など重症なものまで様々です。特に静脈瘤特有の症状として、就寝中のふくらはぎや前脛部の筋肉のけいれん(こむらがえり)と、血栓性静脈炎という怒張血管に血栓が生じて起こる疼痛と熱感があります。当院では血管超音波を用いて血栓性静脈炎などの診断を行ったり、弾性包帯や弾性ストッキングを用いた適切な圧迫療法の指導や、手術適応の場合は適切な静脈瘤治療施設への紹介を行っています。静脈瘤は軽症例では静脈瘤硬化療法、伏在静脈瘤では高位結紮、ストリッピング術になりますが、最近はストリッピングの代わりにレーザー焼灼術もしくはマイクロ波焼灼術を行う施設も増えており、患者様の要望に合わせてこれらを治療可能な施設に紹介いたしますのでお気軽にご相談ください。
深部静脈血栓症、肺動脈血栓塞栓症
深部静脈血栓症とは深部静脈に血管壁の傷害、血流のうっ滞、血液凝固能の亢進が生じることで血栓が起こる病気です。血栓形成の危険因子としては旅行中の長時間座位や、妊娠による下大静脈の圧迫、下肢の骨折時のギプス固定による下腿のポンプ作用の低下などが有名です。東日本大震災時に車中泊を繰り返した方に発症した方が多かったことは記憶に新しいと思います。いわゆるエコノミークラス症候群という病名で有名です。ほかにも凝固系の亢進する病態としては、手術、悪性腫瘍、経口避妊薬などの薬物、感染、脱水などや、先天性、後天性凝固異常などがあります。血栓の好発部位はふくらはぎのあたりで、疼痛、腫脹が生じ、血栓がさらに増加、進展すると下肢全体が緊満腫脹してきます。この病気の恐ろしいところは、血栓が静脈血流に乗って肺に運ばれて肺動脈を閉塞することにより急性の呼吸循環障害を発症する場合があることです。肺動脈塞栓症の症状は突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈などです。失神や心停止を来たすこともあります。当院では深部静脈血栓症の段階で血液検査所見や膝窩静脈から大腿静脈の血管超音波検査などから疾患が疑われた場合は可及的速やかに造影CT検査ができる提携病院に紹介しております。また慢性期の静脈血栓症の患者さんの抗凝固療法を行いながらの経過観察など、病院からの逆紹介にも対応いたしております。
このほかの血管疾患についても北里大学病院で脈管専門医として診療に当たってきた経験を踏まえ、患者さんの要望にできる限りお応えしていきたいと思っておりますのでどうかお気軽にご相談下さい。